東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1167号 判決
次に控訴人は、本件売買代金の支払とその売買物件の引渡とは同時履行の関係にあるところ、被控訴人は右売買物件の大部分の引渡をしないから、控訴人は被控訴人が右物件の引渡のあるまで右代金を支払う義務がない旨抗弁するについて按ずるに、売買契約においては、原則として当事者の一方は相手方がその債務の履行を提供するまで自己の債務の履行を拒絶し得ること勿論であるが、双方の債務又はいずれかの債務に別段の弁済期の定めがあれば、その約定にしたがつて各自その時期に債務の履行をなすことを要し、相手方の債務が弁済期になければ、自己の債務の履行を拒み得ないものというべきである。本件売買契約にあつては、その代金の弁済期及び物件の引渡期が夫々前説示のとおりであるから、控訴人及び被控訴人は各その履行期においてこれが履行をなすことを要する。すなわち、被控訴人は本件契約成立と同時に控訴人に対し鮫陵源本館を引渡し、控訴人は被控訴人に対し代金の内金二十万円を昭和二十二年十二月十二日に、金百八十万円を同月二十五日に金三百万円を昭和二十三年三月二十五日に支払い、残金三百万円は同年五月二十五日に被控訴人から、その余の売買物件の引渡を受けると同時に支払うべきところ、被控訴人が昭和二十二年十二月二十日頃控訴人に対し鮫陵源本館の引渡を了したことは前述のとおりであり、又控訴人が右代金の内に合計金七十五万円を支払つたことは、被控訴人の自認するところであるから、これを右分割弁済金に順次充当すれば、第一回の金二十万円及び第二回の金百八十万円の内に金五十五万円が弁済されたこととなるが、最終回の金三百万円については、被控訴人において引渡すべき残余の物件と同時履行の関係に立つとはいえ、第二回の残金百二十五万円については昭和二十二年十二月二十五日、第三回の金三百万円については、昭和二十三年三月二十五日に夫々その弁済期が到来したことが明らかであるから、控訴人はこれが履行遅滞にあるものというべきである。したがつて右最終回の金三百万円の弁済については、控訴人の同時履行の抗弁は理由があるけれども、右第二回の残金百二十五万円、第三回の金三百万円合計金四百二十五万円の弁済については控訴人の同時履行の抗弁は理由がないから、採用のかぎりでない。
そして本件売買契約には、控訴人において売買代金の支払につき不履行のあるときは、被控訴人は催告を須いず直ちに契約を解除しうる特約のあつたことは、当事者間に争のないところであつて、控訴人が前述のように合計金七十五万円を支払つたのみで、その余の分割金の支払をしないのであるから、控訴人は少くとも前記第二回の残金百二十五万円、第三回の金三百万円合計金四百二十五万円の分割弁済金の支払について債務不履行があつたものというべきであり、被控訴人が昭和二十三年十月十七日頃控訴人に対し残代金支払の不履行を理由として、本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは、前に説示したとおりであるから、右契約は同日頃解除せられたものといわなければならない。